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大阪地方裁判所 昭和30年(ヨ)5号 決定

申請人 真崎登 外五名

被申請人 日本電信電話公社

主文

被申請人は申請人等の被申請人に対する解雇無効確認等の訴訟の本案判決確定に至るまで、申請人等を被申請人の職員として取扱い、且つ申請人等に対し別表A欄記載の金員並に昭和三一年一月より毎月二四日限り別表B欄記載の金員を支払え。

申請費用は被申請人の負担とする。

(注、無保証)

理由

当事者双方の提出した疏明資料により当裁判所が一応認定した事実関係ならびにこれに基く判断は次のとおりである。

第一、本件免職又は解雇に至る経過

申請人真崎登は昭和二七年六月一一日ごろ被申請公社大阪天満地区電話局堀川分局線路課に臨時作業員として入社し同二九年四月一日付で同局本町分局電力課勤務の試用員となつた者、申請人後藤修司は同二八年九月三〇日同局第二船場分局監視員たる臨時作業員として入社し同二九年五月一日付で右分局(但し本町分局と改称)庶務課勤務の試用員となつた者、申請人村田恒夫は同二八年六月一九日同地区電話局土木課に臨時作業員として入社し同二九年四月一日付で同課勤務の試用員となつた者、申請人浦西栄一は同二八年七月一日大阪天王寺地区電話局南分局機械課に臨時作業員として入社し同二九年四月一日付で大阪天満地区電話局船場分局試験課勤務の試用員となつた者、申請人番場達哉は同二八年一〇月一日同局堀川分局機械課に臨時作業員として入社し同二九年四月一日付で同課勤務の試用員となつた者、申請人倉田泰子は同二八年七月同分局線路課に臨時作業員として入社し同二九年四月一日付で同分局試験課勤務の試用員となつた者である。ところが被申請公社(以下、公社という)は同二九年七月三一日、申請人真崎、同後藤、同村田に対して日本電信電話公社準職員就業規則第二一条第三項によりその職務に必要な適格性を欠く者として免職にし、申請人浦西、同番場、同倉田に対して、同人等が結核性疾患に罹患していることを理由として業務の都合により同年八月三一日限り解雇するとの解雇予告をなした。

公社のみぎ免職又は解雇処分の理由として公社側の主張を要約すれば、申請人真崎については、執務時間中に上司の承認を得ずに執務場所を離れることが多かつたので職場離脱をその理由とし、申請人後藤については遅刻が多く且つ監視の職務を怠つたことを理由とし、申請人村田については、同人が昭和二三年四月から同二五年四月まで松本機械製作所、同二五年五月から同二七年三月まで大阪屋工作所に勤務していながら、試用員採用試験の際公社に提出した履歴書にみぎ職歴を記載しなかつたという前歴詐称を理由とし、申請人浦西、同番場、同倉田の三名については、同人等の結核症状が電健第一七号通達(昭二九、二、一七)の定める基準のC級「身体障害の程度が重く、職務に堪えられないか、又は職員及び公衆の安全衛生に影響を及ぼすおそれあるもの」に該当するものと判定区分されたためである、というにある。

第二、申請人等に対する試用員としての雇用形態と本件の基本的争点について

一、雇用形態

申請人等に対する試用員採用の辞令には、

「試用員を命ずる。

○級○号俸を給する。

大阪天満地区電話局(○○分局)○○課勤務を命ずる。

雇用期間は二月とする。

但し雇用期間満了の日において何等の意思表示がなされない場合は、同一条件の雇用が継続するものとする。」旨の記載があり、はじめから試用員としての雇用契約の更新条項が取決められていて、その更新には任命権者が別段の措置をしない限り期間の満了と共に自動的に更新する仕組がとられていた。申請人等はかかる様式の雇用契約に基いて試用員として採用せられ、当初の二ケ月の期間を超えて引続き公社に雇用されていたものである。

二、本件の基本的争点

日本電信電話公社法(以下公社法という)はその第二八条第一項において「この法律において公社の職員とは、公共企業体等労働関係法(以下公労法という)第二条第二項に規定する者をいう」と規定し、公労法の同条項第一号によると、公社の職員とは、公社に「常時勤務する者であつて、役員及び二箇月以内の期間を定めて雇用される者以外のものをいう」と定義づけ、公社の職員の労働関係に関しては、公労法を適用している(公社法第三六条)。また公社には、職員の就業に関し職員就業規則(職就規とも略称する)を定めると共に、「二箇月以内の期間を定めて雇用される者」を準職員と呼称し、これに試用員及び臨時作業員を含ませた上、準職員の就業に関し準職員就業規則(準職就規とも略称する)を定めている。そこで、これらの法律及び就業規則からして前記の雇用形態に関し、次のような争いが展開される。

申請代理人は、申請人等の地位に関し、

1、試用員ははじめから公社の職員である。なぜなら、みぎ公労法にいう「二箇月以内の期間を定めて雇用される者とは二ケ月以内の雇用期間を定めて雇用される臨時雇用の従業員に限ると解すべきであるが、試用員はこのような臨時雇用の従業員ではないし、更にまた「公社の従業員として雇用される期間」としては二ケ月以上の期間を定め又は二ケ月の期間を超えて雇用されることを当初から予定して雇用される者であつて、いずれにせよ試用員はみぎ公労法にいう「二箇月以内の期間を定めて雇用される者」には該当しないから。

2、仮に、そうでないとしても、試用員は二ケ月の試用期間の満了と共に当然に公社の職員となる。なぜなら、試用員についての二ケ月の「雇用期間」という表現で表わされる期間は試用期間を意味し、公社は試用期間中に試用員を選考しなければならないのであつて、試用期間の更新は許されない。公社側は、準職員就業規則第二〇条第五号により、試用員は雇用期間が満了したときは失職することになるから、「雇用期間の更新」条項はむしろ却つてかかる失職すべき試用員の継続雇用を可能ならしめるというけれども、かかる体裁は公社側の都合による職員えの昇任遷延の責をかくし、併せて従業員に不安定な地位を据置くことによつて、公社の相対的優位を保つ手段としているものであり、公労法、公社法の要求する身分保障の責任を就業規則や契約文言の技巧によつて回避しようとするものであつて、明白な強行法違反である。従つて、準職員就業規則中のみぎ条項並に前記雇用契約中の更新条項は無効であり、更新は許されないと解すべきである。

3、更にまた、試用員は仮に予算上の制約のため、二ケ月の試用期間経過後試用員という呼称を用いるとしても、かかる試用員は、解雇等の労働関係の面においては、職員と同等に取扱われなければならない。

と構成し、申請人等はいずれにせよ、公社の職員であるから、公社は申請人等を免職又は解雇するには、すべからく公社法第三一条、職員就業規則第四五条に準拠すべきである。従つて、これを無視し、準職員就業規則に基いてなされた本件免職又は解雇処分は違法無効のものであると主張する。

これに対し、被申請公社代理人は、

1、二ケ月の期間を定めて雇用される試用員は、同様の雇用条件の臨時作業員と共にみぎ公労法の「二箇月以内の期間を定めて雇用される者」に該当するから、従つてまた公社の職員ではない。

2、試用員は大体において条件附採用期間中の国家公務員とその性質を同じうするものであるが、公務員の条件附採用期間が最低六ケ月であること及び公社の試用員につき期間の更新を禁ずる規定もないことを対比すれば、みぎ公労法にいう「二箇月以内」の制限は単に雇用の契約期間に対するものであり、従つて二ケ月以内の期間でありさえすれば、契約の更新によつて引き続き二ケ月以上試用員として勤務することまで禁止する趣旨ではない。

3、試用員のように二ケ月以内の期間を定めて雇用される公社の常勤従業員の雇用関係については、公社法に別段の規制がないから、公社はかかる試用員及び臨時作業員の就業に関し公社独自の方針をもつて準職員就業規則を定めたものである。ところで、同規則第二〇条第五号により試用員は二箇月の「雇用期間が満了」したときは失職することに定められており、更に「職員は、原則として試用員から選考により採用する」(職就規第四二条)とされていてその選考は試用員の勤務成績その他の能力の実証に基いて(公社法第二九条、同規則第四一条)行われるが、かかる能力実証の期間について別段の制限はない。そこでこれらの点に鑑み、前記のような更新条項によつて期間満了に因る失職を防ぎ且つ選考が雇用期間内に行われない場合等に備えるものであつて、かかる更新条項は試用員に対する雇用の継続を可能ならしめるものである。

4、公社は職員に対する給与につき公社法により給与総額の制限をうけるので、公社は毎事業年度の初に、国会の議決を経た給与総額に基いて職員の定員を算出し、これを各電気通信局単位に区分して定員を指示する。従つて、職員の定員配置による予算措置の裏付が伴わない限り、任命権者と雖も試用員を職員に採用することは不可能である。そこで、本件でも試用員採用に際し、かかる予算上の制約により二ケ月の契約期間内に職員に採用できない場合に備えて予め更新条項を特約し、試用員としての勤務が引き続き二ケ月以上にわたる場合のあることを合意しているのである。

と構成し、試用員に対する前記準職員就業規則並に雇用形態の有効性を根拠として、申請人等については、最初の二ケ月の雇用契約がその後同一条件のまま更新され、職員に採用されるまで依然として試用員の地位にとどまつているのだから、公社が準職員就業規則に基いてなした本件免職又は解雇処分はいずれも有効であると主張する。

要するに、申請人等に共通する本件争いの最大の焦点は、前記更新条項をめぐつて申請人等が本件処分当時公社の職員であるかどうか、に帰着する。

そこで、公社における試用員並に職員の実態の面からと公労法、公社法並に前記各就業規則の構造からみた公社の試用制度の面からの両側面から前記雇用形態を検討してゆこう。

第三、公社における試用員の実態的考察

公社の一般従業員は職員(職制上は社員)、試用員及び臨時作業員の三種に大別される。職員とは、前記公社法、公労法の関係から、公社に「常時勤務する者(以下常勤従業員という)であつて、二ケ月以内の期間を定めて雇用される者以外のもの」を指し、臨時作業員とは、災害その他臨時の必要に基いて二ケ月以内の雇用期間を定めて雇用される常勤、非常勤の従業員をいう。(尤も公社の臨時作業員の中には殆んど定員化されて引き続き二ケ月以上勤務する者もあるが、本件では本来の意味における臨時雇用の従業員を対象として考える)。これに対し、試用員とは、職員採用の前提として二ケ月以内の期間を試用期間と定めて雇用される常勤従業員をいう。前記の雇用契約や準職就規第二〇条第五号には試用員について「雇用期間」という用語を使つているが、試用員の雇用期間は将来職員として本雇用する前提として試験的に雇用される期間のことを意味するから、「試用期間」といい表すのが正確である。そこで以下に、試用員及び職員採用の実情について述べる。

1、公社法で「職員の任用は、その者の受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証に基いて行う」(第二九条、職就規第四一条)と規定し「職員は、原則として試用員から選考により採用する」(職就規第四二条)と定められているので、公社は職員就職希望者に対し職員(社員)採用試験のかたちで通常学科試験と体格検査を行い要員需給計画に基く職員の要員数を公社の従業員として採用するのであるが、いきなり職員として採用するのは極く稀で殆んどすべてのものをまづ二ケ月の試用期間を定めて試用員に採用する。

2、試用期間中試用員は企業体の有機的作業活動の一環として常時的基幹的な各職種作業に配置される。試用員の勤務実態は、勤務時間(日直宿直を含む)、休日、休暇、給与、被服貸与等において職員とまつたく同じ待遇を受けているのみならず、その従事する職務の内容と責任においても両者の間に差異は存しない。ただ試用員は文字通りそれが試験的に雇用中のものであるという点において職員と異るのみ。

3、試用員は休職、免職について身分保障がない。

職員及びその組合は公労法の適用を受けて争議行為が禁止せられているかわりに一方では一連の身分保障措置が構ぜられている。例えば職員には結核性疾患の場合にも病気休暇(就職規第三四条)、休職期間(公社法第三二条、職就規第四六条)が与えられ、また免職については勤務成績がよくないとき、休職期間を過ぎてもなお故障のなおらないとき、職務に必要な適格性を欠くとき等公社法第三一条列記の場合を除いてその意に反して免職されることがない(職就規第四五条)。さらにこれら休職、免職等に関する事項は全国電気通信労働組合(以下全電通労組という)の団体交渉による労働協約の対象とすることが認められているので、これにより人事管理の公正な基準を設けることもできる。

これに反し試用員には結核性疾患については病気休暇も与えられず(準職就規第一七条参照)、休職制度は全然ない。また免職についても職員の場合のような身分保障的文言はない(準職就規第二一条)。

4、労組法上の組合活動について

公社の職員の労働関係に関しては、公労法が適用されるのに対し(公社法第三六条、公労法第三条)、二ケ月以内の期間を定めて雇用される試用員及び臨時作業員の労働関係については公労法のわく外におかれ(公労法第四条第三項)、いわゆる労働三法の適用を受ける。

しかしながら試用員は従業員層として新陳代謝がいちじるしく、安定した組成分子をもつていないため労組の結成が容易でないばかりか、たとい労組を結成しても全電通労組の組織から遮断されている限りその実勢はさほどではなく、さらにその争議権の行使については労調法により一〇日前の通知と五〇日間の冷却期間の制限(第三七条、第三八条)を受ける場合もあることを思えば試用期間の二ケ月間は結局争議をなし得ないことにもなる。このように試用員の労組活動はいろいろの面から制約を受け現に近畿電気通信局管内では試用員の労組は存在しない。

5、選考と採用

公社は試用員をみぎのような状態においてその試用期間中の勤務成績、身許調査等に基き主として本人の適格性を調べ職員に採用するかどうかを選考するのである。職員任用の基準に「その者の受験成績」も入れられているが(公社法第二九条)、試用員は公社から試用員として採用される当初すでに職員採用試験により多数の応募者の中から学科試験と体格検査を経て選抜されて来た者であるから、職員採用の実際の選考には、更めて学科試験を実施することなく、むしろ試用員本人の適格性に選考の主眼がおかれるわけである。また結核性疾患の場合は、初期のものでも職員には採用されないであろう(昭二九、電健第一七号)。

ところで、二ケ月の試用期間中に試用員の能力、適格性が実証されていても任命権者は通信局より給与予算の裏付のある「定数」の指示がなければ職員に採用することができない取扱となつている。申請人等が試用員に採用された昭和二九年四、五月当時近畿電気通信局では年度始めに本社から指示せられた定員(給与上の予算措置を伴う職員の補充限度)を基礎として向う六ケ月間の管内要員需給計画をたてて三月の新卒業者及び臨時作業員から以後六ケ月間に予想される職員の欠員並びに増員の補充源として四月一日付で一、三三八名、五月一日付で一九六名の試用員を採用した。従つて公社としても申請人等を含むこれら試用員を二ケ月の試用期間で全部職員に採用できる見通しにたつていないことがみぎ要員計画から窺われる。のみならず各地区電話局より月間に生じた欠員等による各月末現在の要員現況報告が通信局に届くのが翌月の一五日頃で通信局がこれに基いて各局の定員配置を調整して実際の任用計画をたてて各地区電話局に対し試用員から職員に採用できる定数の指示を出すのが翌月の月末頃になり出先機関がそれから選考を始めるのが当時の例であつた。また退職者が漸次激減する傾向もあつて要員の計画と実施の間に見込違いも生じた。これらの事情が重つて試用員は当初の二ケ月の試用期間だけで職員に選考採用されることは殆んど皆無の状態で、二ケ月の試用期間満了の翌日付で職員採用の辞令が出されたものでもそれは公社側が辞令の日付を一、二ケ月もさかのぼらせたものである。

このような公社の取扱によつて試用員は二ケ月の試用期間を経過した者の中から職員要員の欠員並に施設拡充に伴う増員部面え職員として順次補充採用されてゆくのであるが、試用員として採用される人員の数がそもそも要員需給計画による限定をうけ職員の欠員等の補充限度内にとどめられているから、試用員は殆んど全部の者が職員に採用されているのが実状である。ただ右のような公社内部の事情によつて職員えの選考採用の時期が全般的に遅れ、同期の試用員の間においても職員に採用される時期に遅速の差がみられるだけである。

さて、右のように職員えの選考採用が時期的に遅れ、むしろ当初の二ケ月の試用期間内に行われないのが常態である一方、準職就規第二〇条第五号で試用員は雇用期間の満了に因り失職すると定められており、且つ公社としては公労法にいう「二箇月以内」の雇用期間は更新できるとの見解を抱いていた関係から、公社は試用員に採用する当初から前記のような更新条項を含む雇用形態を採用するのを例としている。

6、更新制度の濫用の危険性

かかる更新条項によつて引続き公社に二ケ月以上勤務した試用員も公社の職員でないとして身分保障を与えず、全電通労組えの加入資格も認めない、というのが公社側の一貫した態度である。そうすると、二ケ月を超え比較的長期に亘つて試用員として据置かれている者でも、偶々上司の気に入らないような所為に出た場合には、上司の主観的な意向によつて適格性を欠くというような認定を下されて兎角解雇され易いばかりでなく、殊に申請人等のようにすでに六ケ月乃至二二ケ月に亘る臨時作業員を経て試用員に採用せられ試用員として引続き二ケ月を超えて勤務している者でも、一旦結核性疾患にかかつていることが判ると、たとい、それが初期症状で勤務中の職場環境又は作業の特殊性等にも原因していても、試用員ということであれば、公社は容易に解雇できるであろう(昭二九、電健第一七号参照)。

従つて、前記の如き契約更新条項が公社の人事管理ないし労務管理の便宜のためにも利用される危険性をはらんでいる。

第四、公社における試用員の法的地位について

公社における試用員が職員に選考採用されることを目的として試用期間を二ケ月と定めて雇用される公社の常勤従業員であることについては異論のないところである。右第三、に述べた公社の試用員の実態を主として公労法的公社法的角度から検討し、右実態的考察と相まつて公社の試用員の法的地位に関する問題点を明かにしよう。

1、二ケ月の試用期間を定めて雇用される公社の試用員は、公労法、公社法にいう公社の職員ではない。

(イ)  公社法、公労法は前述の通り、公社の職員を公社に「常時勤務する者であつて、役員及び二箇月以内の期間を定めて雇用される者以外のもの」と定義づけていることから、職員定義の裡にすでに公社の一般従業員の雇用形態として、「職員」と「二ケ月以内の期間を定めて雇用される常勤、非常勤の非職員」の従業員のあることを予定し、且つ公社法第二九条において職員採用の基準として「その者の受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証に基いて行う」ことを明かにしている。更に一般従業員の労働関係に関しても叙上の通り職員か非職員かによつてその取扱を截然区分し、職員の場合は公労法において争議行為を禁止した代りに労組の結成、労働協約締結を目的とする団体交渉を認め苦情処理、紛争の調停仲裁の制度を設けると共に公社法において職員の意に反する免職、休職を制限する等一連の身分保障的措置を講じた。これに反し、非職員に対してはこれを公労法のわく外におき、職員の結成する労組えの加入資格を拒否するばかりでなく、その身分保障について公社法は全く沈黙している。

(ロ)  公労法、公社法が表裏一体をなしてかかる規制をしているのは、次のような要請に基くものである。すなわち、政府所管の国内電気通信事業が国鉄、専売公社の場合と同様に公社組織に切換えられて公社の従業員が国家公務員の取扱をうけないことになつたとはいうものの、かかる公社の企業が国家公共的独占的性格を有しその従業員の労働運動の動向が国家公共の利益に至大の影響を与える点においては、一般私企業の従業員よりはむしろ国家公務員に近似するという立場にたつて企業の正常な運営を最大限に確保する目的の下にこれら公社従業員の労働関係に特殊な統一的規律を与えるものが公労法であるが、その主たる狙いとする争議禁止の要請からすれば、公労法は同一企業体の従業員の全部を対象として画一的に規制しなければ、その目的を達し得ない筋合いである。しかし又反面において争議禁止の代償として前記の如き身分保障措置を講ずる必要があると共に、他方公社には企業の運営に伴う臨時作業に従事する常勤、非常勤の臨時雇用の従業員がいてこれらの者に対し恒久的従業員ほどの身分保障を与えることも適切でないから両者を区別して規律する必要があつたばかりでなく、更に企業体における労働関係の健全化能率化を期する体制として、国家公務員法の規定する人事管理方式(国公法第三三条、第五九条、第八一条第二号)にならい、本雇用の前提として新規雇用された者を一定期間身分保障のない状態において能率の悪い者や不適格分子を雇用の初期段階に企業体から排除できる仕組を確立することが必要であつたからである。

右(イ)(ロ)を合せ考えると、公労法にいうところの、公社に二ケ月以内の期間を定めて雇用される非職員の中には、二ケ月以内の期間を定めて雇用される常勤、非常勤の臨時従業員の類型ばかりでなく、職員採用の前提として二ケ月以内の期間を定めて雇用されてその間の勤務成績その他の能力の実証に基いて選考の上(国公法第三六条参照)職員に採用されてゆくことを建前とする従業員の類型も含まれていることが判る。後者が公社の職員採用のための試用制度である。公社法、公労法は試用員という用語こそ用いていないけれども、右の如き試用制度をすでに創設しているのである。公社の職就規第四一条(職員の任用基準)第四二条(職員の選考採用)準職就規第二条(準職員の定義)、第二一条(試用員の免職)に定める「試用員」制度はかかる公社法、公労法上の試用制度の基準的構造を反復敷えんしているに過ぎない。

従つて、職員採用の前提として二ケ月の試用期間を定めて雇用される公社の試用員は、公労法第二条第二項にいう職員ではないから、公社の職員ではない。右法条にいう、二ケ月以内の期間を定めて雇用される常勤従業員は臨時雇用の従業員に限るとか、公社の試用員は更新条項をまたずにはじめから公社の職員であるとする趣旨の申請代理人の見解は採用しない。

申請代理人は更に申請人等試用員は「公社の従業員として雇用される期間」としては二ケ月を超える期間を定め又は二ケ月の期間を超えて雇用されることを当初から予定して雇用された者であるからはじめから公社の職員であると主張するけれども、申請代理人のいう「公社の従業員として雇用される期間」が公社の従業員として本雇用される期間を指すものでないことは勿論であるし、また試用員については試用員という身分を離れて単純に従業員としての雇用期間を観念することはできないから、試用期間と「従業員として雇用される期間」とが不可分的に結合しているのであつてこれを分離することができない。又右主張の趣旨が前記第三の5に説示した如き職員採用の実態を背景として申請人等が試用員に採用された当時、二ケ月の試用期間中に到底職員に選考採用される見通しがなく、従つて当初から試用期間として二ケ月の期間を超えることを当事者が予定していたというにあるとしても、公社が採用当初に二ケ月を超える試用期間を単一の期間として契約したものとみることは困難で、やはり前記試用員採用の辞令に準拠し、更新条項を媒介として引続き二ケ月を超えて試用員に据置くことを予想していたに過ぎず、試用期間としてはあくまで二ケ月の期間を模準として契約したとみるのが妥当であるから、申請代理人の右主張は理由がない。

2、公労法第二条第二項第一号にいう「二箇月」の期間の更新の許否

公社の試用員に対する二ケ月の試用期間は公労法の右条項に準拠するものであるから、右二ケ月の試用期間が更新できるかどうかは、結局右公労法の二ケ月の期間の法的評価によつて決定される。ところで右公労法の二ケ月の期間は右1、説示の通り、公社の職員と非職員とを区分する標識ないし限界をなすものであるから、その法的評価も亦公労法のみならず、これと表裏一体をなす公社法、非職員を規律するいわゆる労働三法並に国家公共性の点において近似する国家公務員法の綜合的構造の見地から検討されなければならない。

(イ)  労組の自主性民主性に対する法の干渉期間

公労法は叙上の通り、二ケ月以内の期間を定めて雇用される公社従業員を公労法上の職員でないとし、しかも「公社の職員でなければ、公社の職員の組合の組合員又はその役員となることができない」(第四条第三項参照)と定めてかかる従業員に対し公労法上の労組えの加入資格を拒否しているが、このことは、同一の企業体に雇用される一般従業員が自主的民主的に労組を結成することに対する法の干渉を意味する。かかる期間を長くすれば、それだけ公労法上の労組の組織労働者の範囲を縮少し、労組の自主性民主性に対する法の干渉を加重することになる。公労法により職員に争議行為を禁止し労調法により非職員にも六〇日間の争議行為禁止の可能性をもち乍らかかる非職員の公労法上の労組えの加入資格を拒否する趣旨は、公労法が他面において国家公務員法と異なり昇職、免職等について公労法上の労組に協約締結を目的とする団体交渉を認めていること並にかかる労組の強力な事実と思い合せて考えると、かかる非職員に加入資格を認めることによつて公労法、公社法の所期する右1、の(ロ)記載の人事管理ないし労務管理の方針が崩れることを懸念したためであろう。それにしても、かかる組織労働者の範囲制限について、法はできる限り謙譲でなければならない。そうでないと、労組の自主性、民主性は失われてしまうであろう。公労法の立案過程において政府の最初の案ではこの期間が三〇日とされていたことは、この間の消息を物語つている。

従つて、公労法の右二ケ月の期間は、公労法上の労組の組織労働者の範囲の制限、ひいてはその自主性、民主性に対して法の加える最長の干渉期間を定めたものということができるであろう。

(ロ)  二ケ月以内の期間を定めて雇用される常勤従業員に対する勤労保護の要請

公労法にいう「二箇月以内の期間を定めて雇用」される常勤従業員の中に試用及び臨時雇用の二類型の存することは、叙上の通りであるが、かかる雇用形態は本来例外的変則的なものである。試用の目的が使用者側の企業防衞に由来することは、その使用者が国であるか、公社であるか、一般私企業であるか、によつて異らない。ただ試用によつて確保せられる利益が公益か私益かのニユアンスの相異があるだけである。また臨時雇用は企業の運営に伴う臨時的作業に関して行われるのを本旨とするけれども、時には企業防衞等のためにも利用されるであろう。いずれにせよ、かかる試用又は臨時雇用の形態によつてやとわれる労働者は身分保障のない不安定な状態におかれること必定である。しかし試用又は臨時雇用の名においていつまでも身分保障のない雇用契約の期間の更新を許容することは、勤労保護の憲法上の要請に副う所以ではなく、また経営権の濫用となることもあろう。労働基準法第二一条にもかかる試用労働者、臨時工保護の思想が現われており、又労組法第一七条の労働協約の一般的拘束力によつて救済の道も開かれている。高度の公共性のゆえに争議権を禁圧し組合活動を極度に圧縮した国家公務員法は、一方ではすべての一般職員につき少くとも六ケ月の身分保障のない条件附採用期間(試用期間)を設定した代りにその期間の更新を認めないし(国公法第五九条、人事院規則八―一二第二六条第二項)、他方では臨時的任用につき、かかる採用方法を利用し得る場合を厳格に制限すると共に、その期間を六ケ月に制限し、極めて特殊な場合に限つて一度だけの更新を認めるが、再度の更新は許さない(同法第六〇条、同規則第一六条、第一七条)。国家公務員法はかかる変則的例外的雇用形態をこのように制限し保護しているのである。これと比較して公共企業体の場合を考えるとき、公共企業体においても国家公共性のゆえをもつて職員の争議行為を禁止し、試用制度を予定するばかりでなく、試用又は臨時雇用の従業員にも労調法を適用して六〇日間の争議行為を禁止し得る態勢を整えている。法が国家公共性のゆえに公共企業体の従業員に対してかかる不利な労働条件を設定するからには、これに対応してその地位安定の措置を講じ勤労保護の憲法的要請に応えることは、蓋し当然といわなければならない。

このような意味において、公労法にいう二ケ月の期間は、企業防衞を通じて国民の利益を確保せんとする国家公共の要請と身分保障のない試用又は臨時雇用の常勤従業員の地位安定の要請の調和点といつて差支えないであろう。

(ハ)  争議行為禁止の要請

屡述した通り、公労法は公社の企業の正常な運営の最大限を確保するために、一方で職員の争議行為を禁止し、他方非職員を労働三法の適用下においたとはいうものの、労調法は非職員に対しても六〇日間の争議行為禁止の態勢を準備している。その期間は丁度かかる非職員の雇用契約に定める二ケ月以内の法定の期間の最長期間と符節を合する。二ケ月の期間を定めて雇用された臨時雇用の従業員についていえば、争議禁止期間の満了と共にその地位を失うことになるであろうし、二ケ月の試用期間を定めて雇用された試用員は職員登用又は免職のいずれかの方法によつていずれもその職を失うに至るであろう。従つて、公労法は労調法と相まつて、公社の全従業員の労働関係において均整して争議行為を禁止し公労法の所期する企業防衞即国家公共の利益確保を実現し得る法構造をとつているといつてよいであろう。公労法の右二ケ月の期間をもつと長くすれば労調法との関係から、それだけ争議行為をなし得る非職員の従業員群を増すことになり、またこれをもつと短かくすれば、公社における労働関係の健全化能率化を期するため採用した能力実証制の人事管理上の要請並に臨時雇用の労務管理上の要請に副わないことにもなるであろう。しかし、かかる人事管理ないし労務管理上の要請としても公共企業体の従業員の作業活動の実態が一般私企業に類似しているのに鑑み、公労法は、国家公務員の場合の如き六ケ月の期間は長期に過ぎるとし、むしろ労働基準法第二一条第二号において臨時雇用の期間の標準が二ケ月と定められていることとも関連して、二ケ月の期間をもつてその目的を達し得るものとするのであろう。

このような意味において、公労法の右二ケ月の期間は、職員及び非職員に対する争議禁止の要請の唯一の均整点を示すものであり、且つかかる争議禁止の要請と人事管理ないし労務管理上の要請との調整点ともいえるであろう。

右(イ)ないし(ハ)を合せ考えると、公労法第二条第二項第一号の二ケ月の期間は叙上の如きいろいろの要請が制約し合つてそれらの調和点として工夫されたものであることが判るのであつて、公社が二ケ月の試用期間又は雇用期間を定めて常勤従業員を雇用する場合の最長の強行法的雇用基準を設定したものであつて、右二ケ月の期間の更新は許されないと解するのが相当である。従つて公社の試用員に対する二ケ月の試用期間の更新は許されない。といわなければならない。

被申請代理人は右公労法の二ケ月の期間は単に契約期間に対する制限に過ぎないと主張するけれども、かかる見解は採用しない。

3、準職員就業規則第二〇条第五号の「試用員は雇用期間が満了したときは職を失う」旨の規定は公社法、公労法の試用制度に反し無効である。

公社側は、右更新の許否に関連して右準職就規を援用し、もし試用員の雇用契約に更新条項がなく且つ二ケ月の期間満了までに公社側がなんらの措置をしないときは、右準職就規のある結果、試用員は期間満了と共に却て失職することになるのであつて、更新条項はむしろ試用員の継続雇用を可能ならしめるものであると主張する。

しかし、右準職就規にいう「雇用期間」の用語が試用員について妥当でなく、正確には試用期間を意味すること、公社は試用員を職員に選考採用することを条件として二ケ月の試用期間を定めて雇用するものであり、試用期間中職員と同じ勤務実態においた上、試用員の「受験成績、勤務成績又はその他の能力の実証」に基いて選考が行われるが、その受験成績というのは、試用員を採用するときに行われる職員採用試験をもつて併用し、主としてその適格性に選考の主眼がおかれることは、すでに述べた。かかる公社の試用員制度が叙上の通り公社法、公労法の創設に係るもので、その制度のうちに前記の如き国家公共的並に試用従業員の勤労保護の要請が盛り込まれていることに徴すれば、公社はかかる試用制度の運用において公正に選考を行い、選考の結果に応じて適切な措置をとることこそ、右の如き諸要請に応える所以である。この意味において公社の選考は公社法、公労法上の権利であると同時に責務であるといわなければならない。

然るに、右準職就規第二〇条第五号は試用員が試用期間の満了に因り失職することを定めている。公社は職員を、原則として試用員から選考採用し(職就規第四二条)試用員の能力実証主として適格性を基準として試用員を職員に選考採用してゆくことを建前としているに拘らず、右規定は勤務成績のよい人もわるい人も、適格性のある人もない人も、更には公社の選考とは一切かかわりなしに、試用員を十把一絡にして単に試用期間の満了という一事によつて失職させることができるとするものである。しかし、かかる準職就規は、明らかに公社の試用員制度の建前にもとるばかりでなく、公社法、公労法上の前記責務に違背するものである。

従つて、右準職就規は公社法、公労法並に職就規第四一条第四二条に違反するから、労働基準法第九二条第一項により無効といわなければならない。右準職就規を盾に契約更新の適法を云々する所論は、本末顛倒といわなければならない。

4、試用期間二ケ月の試用員はいつ公社の職員となるか。

二ケ月の試用期間を定めて雇用される試用員につき、かかる試用員は公社の職員ではないが職員に選考採用されることを条件とするものであること、二ケ月の試用期間の更新が許されないこと、試用期間の満了によつて試用員が失職することを定めた準職就規第二〇条第五号の規定が無効であること、公社が試用員の能力実証に基いて職員採用可否の選考をなすべき責務を有することは、右に述べた通りである。そして試用員につき準職就規第二一条に免職規定のあること、試用員が職員採用試験というかたちの試験を経て採用され、その採用人員が職員要員の欠員等の補充限度内に限られていて従来その殆んどすべての者が多少の遅速の差はあるにしても職員に補充任用されていたことは、前記第三、の実態的考察において言及したところである。

以上の諸点を綜合して合理的に判断すれば、二ケ月の試用期間を定めて雇用された公社の試用員は、公社側で試用期間の終了前に準職就規第二一条所定の事由に該当するものとして免職又は解雇の措置をせずに雇用が継続している限り、試用期間が終了した日の翌日に公社の職員となるものと解するのが相当である。被申請代理人は試用員を職員に採用するには、職員の定員配置による給与上の予算措置が伴わない限り、不可能であると主張する。しかし、叙上の如く公社法は公労法をうけて公社の職員を「公社に常時勤務する者であつて、役員及び二箇月以内の期間を定めて雇用される者以外のもの」と定義し、公社従業員の労働関係の側面から一義的に規定するだけで、公社予算の面からはなんらの規制も加えていない。また公社の職員には定員法の定めるような定員はなく、公社法によつて職員に対する給与総額の制限をうける関係から、これを公社各機関に分配する基準として公社が定めた配置要員の人数をいうに過ぎない。従つて、予算措置を伴う定員配置がないということを理由に職員定義をまげて試用員が職員になることを拒否することはできない。又公社側には、条件附採用の国家公務員の場合は任命権者が本人の不適格を証明しない限り自動的に正式の職員となるに反し、公社の試用員の場合は本人が適格を証明して公社から職員に採用するといわれない限り試用員の身分を失つてしまう、との見解もある。しかし、公社の試用員に関する右見解は結局準職就規第二〇条第五号に立脚するものであつて、右準職就規が無効であること叙上の通りであるから、到底採用し得ない。

被申請代理人は公労法第二条第二項第一号にいう二ケ月の期間は単に雇用契約の期間に対する制限であつて、二ケ月の期間でさえあれば更新を禁ずる趣旨ではないから、その期間が引続き更新される場合でも、公労法公社法にいう職員ではないと主張し、更に労働省労政局長も亦すでに昭和二九年一〇月一八日附労発第二七六号を以てなした全電通労組に対する回答において公社の試用員の身分関係につきこれと同様の見解を示しているが、かかる見解は右公労法の法意を正しく把握したものとはいい難いこと叙上説示の通りであるから、当裁判所はかかる見解を到底採用し得ない。

第五、本件免職又は解雇の効力

一、以上の考察により申請人等に対する前記第二の一、説示の雇用契約中、更新条項の取きめは無効であり、申請人等が採用当初の二ケ月の試用期間の満了前に公社側の任命権者から別段の措置をうけることなく引続き雇用されていたことは叙上の通りであるから、申請人等は右二ケ月の試用期間満了の日の翌日、すなわち申請人後藤を除く他の申請人等五名については昭和二九年六月一日、同後藤については同年七月一日、それぞれ公社の職員としての身分を取得するに至つたものといわなければならない。

従つて、公社が同年七月三一日申請人等を免職解雇するには公社法第三一条、職員就業規則第四五条の規定に依拠してなされなければならない。然るに、申請人等に対する本件免職解雇は試用員に適用すべき準職員就業規則第二一条によりなされたものであるから、本件免職解雇は違法無効のものという外はない。

二、申請人等が公社の職員であつても本件免職又は解雇は有効、とする被申請人主張について

被申請代理人は、仮に申請人等が公労法、公社法、職就規にいう職員であつたとしても、申請人等に対する公社の解雇意思は確定していてかわりなく、しかも公社が解雇の際適用した準職就規第二一条第三号第二号の免職条項と全く同一の規定が職員に適用すべき公社法第二一条第三号第二号、職就規第四五条第五号第二号にもあり、且つ申請人等に対する前記第一記載の免職又は解雇理由が職員としても右法条にいう免職事由に当るから、右法条によつても申請人等を免職解雇し得た場合であるから、本件免職、解雇はその適用法条を誤つた点において形式上瑕疵あるにとどまり、有効であると主張する。しかし申請人浦西、同番場、同倉田の三名の如く、結核性疾患を理由として免職解雇する場合には、試用員であれば準職就規第二一条第三号により直ちに免職することもできるであろうが、職員であれば、まず休職処分にした上その休職の期間が経過してもなお故障の消滅しないときにはじめて免職できるのであつて(職就規第四五条第二号)、公社法第三一条第二号の身分保障規定が右職員就業規則により職員に一層有利になつている。従つて、結核性疾患を理由とする免職については、試用員と職員とは全く規定を異にしているから、両者に全く同一の規定のあることを前提とした被申請代理人の主張は、すでにこの点において理由がない。

更に申請人真崎、同後藤、同村田の如く、職務に必要な適格性を欠くことを理由として免職する場合には、法規を単に形式論理的に読めば、試用員でも(準職就規第二一条第三号)職員でも(公社法第三一条第三項、職就規第四五条第五号)免職事由の一つとされていることは被申請代理人の主張の如くである。しかし乍ら公労法が、職員については争議行為を禁止する反面かかる免職を団体交渉の対象として認め更に苦情処理、紛争調停の機関を設けており、公社法職員就業規則がまたこれと表裏一体をなして職員の身分保障に深く意を用い右の如き不適格性を理由とする免職規定についても身分保障的文言を以て表現していることに照し考えれば、職員の身分はそれ以外の従業員とは比較にならない程強く保障されていて免職規定の評価規準を異にするものといわなければならない。更に申請人真崎、同後藤、同村田が昭和二九年八月三一日附文書を以て公社の苦情処理委員会に対し本件免職に関し苦情解決の請求をなしたに拘らず、公社側においてこれに取合わず完全に無視する態度に出た、ところで公労法第一条第二項には「この法律で定める手続に関与する関係者は、経済的紛争をできるだけ防止し、且つ、主張の不一致を友好的に調整するために、最大限の努力を尽さなければならない。」とされていて職員の労働条件に関する苦情又は紛争の友好的調整のために公労法は苦情処理、あつ旋及び調停等の手続を定めている。従つて、申請人等が右の如く苦情解決の請求をしたときは、公社側はまず苦情処理の場で友好的解決をすることに最大限の努力をしなければならない。かかる請求に取合はないでおり乍ら、本件仮処分の手続中に、申請人等がもし職員であつたとしても解雇するものであるというが如きは、公社側のふむべき手続を怠つたものといわなければならない。殊に申請人真崎等三名の免職理由として公社側の掲げる事実がその通り存するとしても、それが問題なく「職員としても」直ちに「免職」という従業員にとつて極刑にも比すべき不利益処遇に該当すると言い切ることができるかどうか疑わしいことを思い合せるとき、かかる苦情処理委員会の解決手続を経ていないことは、公社側に致命的落度といわれても致し方あるまい。これらの点と公社が準職就規第二〇条第五号の失職条項を根拠として試用員に対する期間更新の可能につき根強い信念を抱いていたことを思い合せるとき、公社が申請人等を免職したのは、申請人等が試用員であつて職員でなく従つて公社法、職就規上の厳格な制約がないとの前提に立つて事を処理したものと解する外なく、若し申請人等が職員であるとしても公社法、職就規の規定により免職解雇する確定的意思であつたと解することは到底不可能である。

従つて、公社の本件免職処分は単に適用法条を誤つた点で形式上の瑕疵あるに止まる、とする被申請代理人の主張も理由がないといわなければならない。

第六、職員としての地位保全並に給料請求権と仮処分の必要性

以上のとおりで申請人等に対する本件免職、解雇はその他の争点につき判断するまでもなく、いずれも無効であり、申請人等はなお公社の職員たる地位を保有するものであるから、公社は同人等を公社の職員として取扱わなければならない。従つて又同人等は依然公社に対し賃金請求権を有し、その月額は少くとも別紙目録B欄記載のとおりである。ところで公社は毎月遅くとも二四日迄にその月分の俸給を支給することになつている(公社職員給与規程第一〇条)から、同人等は既に履行期の到来している昭和二九年八月分(申請人浦西、番場、倉田は同九月分)より同三〇年一二月分迄の合計(申請人村田は既に受領済の一二、八七五円を控除)である別紙A欄記載の各金額、及び将来に亘り毎月前記月額を請求し得るものである。そして申請人等が給与生活者として賃金の支払を久しい間受けられないため生活不安を招来していることも容易に推察されるから、仮処分によりこれが救済を求める必要性があるものと認められる。よつて申請人等の本件仮処分申請を許容し、申請費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 木下忠良 日高敏夫 中島一郎)

(別紙省略)

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